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適応的管理(アダプティブ・マネジメント)とは、予測できない自然環境に対する計画や取り組みに対して、モニタリングによる評価を行い、科学的な検証によって計画や取り組みそのものを見直し、試行と実践を繰り返しながら管理する手法です。
知床の森づくりにおいて正解はありません。慎重に計画を立てたものでも、自然相手では全く予想外な結果がくることもあります。その為、大学の研究機関などの協力を経て、取り組んだことに対して科学的なモニタリングを行っています。そのように結果から学び、試行錯誤しながらその場所で最適なやり方を追求しています。
簡易魚道とは、サケの遡上の障壁となるダムなどに、緩やかなスロープを簡易的に作り、サケが上れるようにする、言わば「後付けの魚の通り道」です。
私たちの取り組みでも、イワウベツ川支流の盤ノ川にある橋を守るためのコンクリート壁に、簡易魚道を設置しています。その壁の高さは4メートルあり、サケの遡上できない高さでした。魚道設置の作業は、重機を用いずに沢山のボランティアに手伝っていただき、たったの二日間で完成しました。また使用した木材は森林再生作業で発生するアカエゾマツ間伐材を使っているなど、知床ならではの簡易魚道が出来ました。実は一度大洪水によって半壊し、作り直しています。イワウベツ川に赤く染まったサクラマスが数多く遡上する日を夢見て、私たちの挑戦は続きます。
馬搬とは、伐採した木を馬で運ぶことです。化石燃料の使用を抑え、土壌や根を傷つけずに生物多様性に配慮した作業が行えるので、自然と共存する環境にやさしい林業として再注目されています。
知床の森林再生でも実際に馬搬ができるか検証したところ、重機が入れないような木が込み合った造林地でも難なく丸太を運搬し、作業後の地面も土壌がほとんど踏み固められていませんでした。将来的には既存の作業道から遠い造林地では、新たに重機路を作らずに済む馬搬による施業を試したいと考えています。
エゾシカの樹皮食いは、主に餌が不足する積雪期に発生し、樹木の皮をはいで内側の柔らかい部分を食べる行動です。特にハルニレ、オヒョウなどの広葉樹を好み、雪が積もると被害は2mを超える高さになることもあります。樹皮が一周はがされてしまうと、水分や栄養が運ばれなくなり、その木は枯れてしまいます。
エゾシカによる食害対策は森づくりが本格的に始まった約30年前からの課題です。防鹿柵を設置したり樹皮保護ネットを巻いたりしますが、大雪によって壊れた柵の修繕や、経年劣化した樹皮保護ネットの巻き直しなど定期的な管理が必要になります。
エゾシカから森を守ることが森づくりの活動では最優先事項となっています。
ギャップとは、森に空が見えるほどの穴が開き、光が入る空間のことを指します。天然林ではギャップができることで日当たりがよくなり、森の下にいた木の成長や種の発芽が促され、新たな森がつくられていきます。
私たちの運動では、アカエゾマツだけの森を樹種多様な森に導くために、間伐を行うことで人為的なギャップを作っています。ギャップの中では、わざと倒れた木や枯れた木を片付けずに残します。こうすると、ほかの生物が利用できて、生態系の回復に役立つと考えられています。
ギャップを作った後は基本は自然に種が来ることに頼りますが、周辺にそういった環境がない場合は広葉樹を植えることで、それらがやがて種の供給源となり、アカエゾマツ林を樹種多様な森に導きます。
運動地には開拓後40年以上経ても森林化が進まないササ地が点在しています。背丈の高いササが隙間なく生えた場所では、樹木の種が散布されても光をめぐっての競争に負けて生育することができません。また厄介なことに、ササは地上に出ている部分を刈り取っても地下茎が残っていればすぐに回復する特性があります。
そこで当運動では、重機を用いてササ地を根ごと掻き起して、2週間ほど放置し地下茎を枯らしてから、栄養を含む表土を埋め戻す「ササ地の掻き起こし」の作業を行っています。
ササが衰退することで、他の草本や樹木が生育できる余地が生まれ、森林化が期待されます。
防鹿柵とは、エゾシカの侵入を防ぐために金網や板で敷地を囲んだ柵で、運動地内には20基が設置されています。知床では1990年代からエゾシカの生息数が激増し、エゾシカが好んで食べるハルニレやキハダ等の広葉樹は食害を受けてその多くが枯死しました。また、稚樹も発芽したそばからエゾシカに食べられて、次世代の樹木の生育が大きく妨げられました。
そこで、運動地内にある広葉樹が多く残る森林を守るために防鹿柵が建てられました。ほかにも、広葉樹の苗を植えて樹種多様化を目指している造林地を守るための防鹿柵や、広葉樹を種から育てている苗畑を守るための防鹿柵があります。