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2.生物相の復元

 開拓以降、姿を消してしまった生き物たちを再び運動地の森で見ることがきるような環境に復元するための取り組みを行っています。

サクラマスの復活

 森が育んだ栄養分が川や海に流れ込み、その豊かな海で育ったサケやマスは、川を遡上し、森に住む野生動物たちに大きな恵みを与えます。このように海と森が密接に繋がり、一体となった自然環境を有しているのが知床の特徴です。
 かつて運動地を流れる川に生息していたサクラマスは、戦後を境にその数が減少し、姿を消してしまいました。100平方メートル運動では、そのサクラマスを第1次復元対象種とし、サクラマスが再び知床の川に戻ってくることをめざし、発眼卵の放流とその後のモニタリングを行っています。

 1999年から2001年までの3年間、合計10万匹のサクラマスの稚魚と約33万個の卵を運動地の川に放流しましたが、安定した再生産には至りませんでした。当時、その要因として、海での減少や河川環境の悪化、河川工作物(ダム)が障害となり遡上が妨げられていることなどが指摘されていました。
 その後、2005年の世界遺産登録をきっかけに、運動地内の川でもダムなど工作物の改修が進んだことから、2008年より卵の放流を再開しました。その後、川に帰ってくるサクラマスは、しばらくの間は毎年数尾という状況が続きましたが、2017年からは毎年10尾以上になるなど増加の傾向が見られ始めるようになりました。
 復元に向けた取り組みの開始から20年の歳月を掛け大きな変化を迎えようとしています。今後も継続的にモニタリング行いながら生息状況の変化を追っていくとともに、河川環境の改善に向けた取り組みを進めていきます。

カラフトマス・シロザケの自然産卵の促進

 サケ・マスの自然産卵の機会を増やすための取り組みも進めています。2000年中ごろまでは、岩尾別川河口にサケ・マス捕獲施設があったため、魚はそれより上流へは上がることができませんでした。そこで、100平方メートル運動では、そのサケ・マスを買い上げて上流へと移動させていました。しかし、その後、捕獲施設が改善され、サケやマスが自然遡上できるようになったため、自然産卵を促進する取り組みは岩尾別ふ化場(一般社団法人北見管内さけ・ます増殖事業協会)の自主的な取り組みとして引き継がれ、毎年実施されています。
 一方では、サケやマスが遡上することで課題も生まれています。それは、魚を食べるために集まるヒグマとそのヒグマを見ようと集まる人との関係です。クマがサケやマスを食べることは本来あるべき姿ですが、多くの方々が訪れる知床では、人と野生動物の距離があまりにも近い場合が多くあり、その在り方については知床国立公園の課題のひとつにもなっています。

その他の復元対象種

 サクラマスに続く第2弾の復元対象生物として、シマフクロウなど鳥類5種とカワウソ、オオカミの哺乳類2種を掲げています。シマフクロウなどの鳥類に関しては、運動地周辺も含めて今もその姿を見ることはできますが、生息に必要な河畔の大木などは失われようとしているもの現実です。将来、それらの鳥が暮らす森を育てるためことも目的のひとつとして森づくりを進めています。
 一方、カワウソとオオカミについては、いずれも北海道では絶滅しています。現在、カワウソの導入可能性検討のための情報収集と基礎調査を進めています。導入のためには、人の生活への影響や法律の整備など、現段階で解決すべき多くの難しい課題があるため、今後も長い目で取り組んでいく必要があります。