研究成果
かつて乱開発の危機にあった知床国立公園内の開拓跡地を保全し、原生の森を復元する「しれとこ100平方メートル運動」に関する研究成果をご紹介します。
横浜国立大学 大学院環境情報学府の鈴木紅葉 博士課程学生・東京大学 先端科学技術研究センターの森章 教授らの研究グループは、外来種から在来種、さらには複数種の混交植栽へと植栽方法を変容させてきた約40年の森林再生活動を辿りながら、運動地における森林成長や構造的多様性を評価した論文を発表しました。運動地では、1977年から1996年にかけて、全国からの寄付金を元手に開拓跡地を買い取って保全する「しれとこ100平方メートル運動」が行われてきました。1997年から現在に至るまでは、本来の潜在植生(針広混交林)を再生し、生態系の回復を促進する「100平方メートル運動の森・トラスト」が実施されています。本研究によって、在来種の植栽地では他の森林タイプよりも顕著な森林成長が見られたものの、構造的多様性の回復には至っていないことが示されました。科学的知見をもとに合意形成し、管理手法を実践しながら改善する「適応的管理」のアプローチが運動地で効果的に機能する要因と、運動地が抱える課題について考察した本稿が他地域へ有益な情報提供となることが期待されます。本研究成果は、国内科学雑誌「保全生態学研究」(2022年10月25日付)に掲載されました。
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/advpub/0/advpub_2118/_article/-char/ja/
東京大学先端科学技術研究センター生物多様性・生態系サービス分野の小林勇太特任研究員と森章教授らの研究グループは、知床国立公園の耕作放棄地において、植栽密度(0~10,000本/ha)と植栽種数(1~6種)を変化させた31通りの植林シナリオ毎に、森林へと回復していく過程を「iLand」と呼ばれる森林景観モデルを用いてシミュレーションしました。その結果、炭素吸収量の回復は植栽密度の増加と共に早まり、生物多様性の回復は植栽密度の減少・植栽種数の増加と共に早まることがわかりました。これに加えて、生態系回復の軌道を著しく乱してしまう危険な植林方法が存在することを発見しました。特に、単一種の高密度植栽は、炭素吸収量の回復は早いものの、生物多様性の回復を100年以上も遅らせる可能性があることがわかりました。全球規模で深刻化する気候変動や生物多様性損失に歯止めをかけるうえで、改変された生態系の修復は有効な施策の一つです。本研究は、このようなグローバルな課題の解決に向けたローカルな取り組みに対し、科学の貢献を示した一例として広く活用されることが期待されます。本研究成果は、2022年3月23日付けでRestoration Ecology誌に掲載されています。
URL: https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/report/page_01356.html
横浜国立大学 大学院環境情報学府の鈴木紅葉 博士課程学生・同環境情報研究院の森章 教授らの研究グループは、外来種が自然林再生に果たす役割を評価した論文を発表しました。世界自然遺産 知床では、過去の開拓の歴史が現在も色濃く残っており、自然林を目指した森林再生活動が行われています。本研究では、本来は北海道に生息しない樹種カラマツが防風林・更新適地として機能し、在来種の成長・更新を促進することを明らかにしました。外来種をすべて排除するのではなく、生態系の一部として許容することが自然生態系の復元に繋がる可能性があります。
本研究成果は、国際科学雑誌「Forest Ecology and Management」(2021年4月24日付)に掲載されました。